墨色。♭1

希少な伝統技術「手彫り」と、刺青の歴史


 海外では、ファッションとしてのタトゥーが広がりつつある中で、私が得意とする和彫りという世界は、任侠映画に登場するような、背中一面や両腕、または全身をキャンパスにして、物語の一場面や、人物、神龍や鳳凰などの伝説の生き物を日本人独特の感性をもって彫ってゆく。


 更に、マシーン彫りが主流の中、手彫りという昔ながらの手法を使って、スティックと呼ぶ一本の棒状の手彫り道具の先に、当日の仕事に適した針を備え付け、スジ(絵の周りにあるラインの部分)から、ボカシ(グラデーションを施し、均一に色を付け塗り潰す部分)まで、すべてをこの手彫り道具一本で行なう。


 繊細で、かつ手間暇かかる作業を繰り返す。この珍しい作風に興味をいだき、わざわざ海外から足を運んで下さるお客様もいらっしゃる。


 この地道な作業を数時間、敷かれたマットの上に正座やあぐら、または片膝を立てた状態で座ったまま、似たような体勢を保ちながら作業を行い完成させてゆくのである。手彫りは上から押さえつけるように彫るため、マシーン彫りのように椅子に座って行なうことが出来ない。お客様には長時間、寝転んだままの体勢で、横を向いたり仰向けになったり、うつぶせになってもらいながら、痛みとの戦いに挑んでいただく。


 そして彫師の、この地味な作業は傍から見ているほど簡単でもなく、体力と、集中力と、根気、そして信念が必要なことは言うまでもない。


 マシーン彫りとの違いを、よくたずねられる。私自身が、マシーン彫りを本格的には習ってはいないので、技法ではなく感覚の違いだけを話すならば、マシーン彫りはミシンのように早く、真っすぐで綺麗なラインがつくれる。またポスターのように精密な美しさがある。


 手彫りは、手縫いのような手仕事の味と、絵手紙のような人の手が生み出す独特のグラデーション美がある。


 得て不得手はあっても、どちらが優れ、どちらが劣るというものではなく、人の好みの違いなのではないだろうか。


 しかし、どれだけ志をもって仕事に向き合っても、刺青師という資格制度がない日本では、法律的に曖昧なグレーゾーンに属された職業であることが、現在の大きな問題であることに、間違いはないのである。

魂を刻む場所

★愛と感謝☆ 手彫り・和彫りを信条とし 「魂の想い」を込める 刺青を彫りつづけてきた。 色とりどりの華が 自分らしく、咲き誇こることを願って。

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