墨色。♮5
高校はデザイン科を卒業したが、絵が特に好きだったわけでない。卒業後、宝飾品のデザインから製作までを行う小さな会社に就職したが、バブル崩壊後の影響を受け、倒産した。そこからは、着物の販売、喫茶店のウエイトレス、営業、深夜の工場、病院の看護助手、飲食業のホール、結婚してからも常に仕事をもって、働き続けた。
絵を描くことが好きというよりは、モノを創ることの方が好きだ。
中学生の頃、美術でオルゴールの木箱の蓋に、彫刻刀で牡丹の花を彫っているとき、無心になって製作し、とても楽しかったのを覚えている。
根っからの職人肌だと今となってはそう思う。頑固で真っ直ぐで、自分でいうのもなんだけれどコツコツ取り組むのが好きだ。商売人には向かない。あまり愛想もない。
そんな自分自身が少しずつ変化していけたのも、刺青と出会って、ジャンルを超えた様々な職業のたくさんの人間に出会え、いろんな世界があること、個性的な人がいること、多種多様な考え方があって、腹を割った話をすることが出来たこと。そんな一期一会の出会いのお陰が、非常に大きかったと思う。
遊ぶ事より、自分探しをしている方が楽しかった。ゲームをするなら、本を読む。ゲームセンターへ行くよりホームセンター(笑)。
ガチガチに固まった私を、少しずつ緩める事が出来たのも、刺青という偏見のある世界に身を置いたことで、立場を変えてものを見る事が出来るようになったからだと思う。
お酒はもともと飲めないが、見た目は大酒のみに見えるらしい。弟子として仕事場まで通う間に、いつしか煙草も吸わなくなった。好きで吸っていたわけでもなく、何せ彫豊が吸わなかったから、弟子の私が吸うのもおかしいだろうと思ったし、煙草を吸う時間がもったいなかった。それぐらい私は刺青というものに魅入られてしまったのだ。
タバコを吸う時間があったら、一つでも多くの技術を見て盗もうと思った。
言われてするのは下の下。見て覚えるのが中の中。言われんでもするのが、上の上。そんな事を彫豊に教えられた気がする。
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