墨色。♮4
図柄選びの為、タトゥーの写真が掲載されている海外の雑誌を幾つが見せてもらったが、これといって彫りたいものはなく、迷っていた。すると、ちょうど彫豊が仕事をしていたお客様の背中を見せてくれるという。
これが、本物の「和彫り」というものに出会った最初の瞬間である。
私の中に衝撃が走った。それまで見た、タトゥーとは違う何かがそこにはあった。こんなに心動かされた瞬間が今までにあっただろうか。そう思わせるほどに、私の心をわしづかみにしたのだった。
和彫りが優れ、その他のジャンルが劣るわけではない。ただ、私の感性が和彫りという日本の和の容に、異様に反応しただけのことだ。
そしてそれが、蝶々を彫ってもらった時のように電気の力を使うマシーンではなく、手彫り道具により人の手仕事で全てが成されている過程に、驚きを覚えた。
簡単に言えば、ミシンを使わず手縫いで仕事をしている。実際に縫うわけではなく、手彫りの場合は、針を刺すというよりは、人の手の加減で弾いていくという感じだろうか。
人の手が伝える仕事。人の手が、人の肌にほどこす芸術。
そこには、リズムでつながる不思議な調和が生まれる。
この時私は、その重みと職人技に魅力を感じ、引き寄せられていった。
手彫り・和彫りが出来る彫師になりたい。すぐ様彫豊に弟子志願を申し出た。彫豊は苦笑いしながらも、一つ返事で受け入れてくれた。
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